笑顔は苦痛か

人の心をハッピーにするはずの笑顔が、反対に、多くの人にとって心の負担になっています。 笑顔が美化されすぎて義務になり、笑顔の冴えない自分を卑下してしまう。 ぶさいくな人は接客業に向いてないんでしょうか。 笑顔のない人は仕事で使いにくいのも事実。どうしましょう?


笑顔は苦痛ですか?
あいさつは苦痛ですか?
トイレ掃除は苦痛ですか?

──いやまったく、
わたしが言うのもなんなんですけど、
いろんな人がいてるもんです。
今回は、
職場で笑顔のない社員をどうするか?
っていう難問に
取り組んでみましょう。
>そんな愛想の悪いやつ、
>はじめから採用しなきゃいいじゃないか。

っていう答はナシってことで、
もう雇っちゃったってことにしてください。
仕事をさせてみてしばらくたってから、
事の重大さに気づいたっていう場面設定です。
会社から見て「笑わない」ってことは、
本人にとってみれば「笑えない」っていう、
双方にとって深刻なテーマです。
そういえば、
「スマイル」をメニューに載せて、
0円で販売してたのは日本マクドナルド。
なかなかウィットの利いたシャレで、
けっこう有名ですが、
昨年(2012)なぜかこの「0円のスマイル」がメニューから消えました。
マクドナルド側は、
>常にスマイルを提供しているため
>あえて「スマイル¥0」のメニューはなくしました

とコメントしたとか。
ほんとうは笑顔のできる若い子が減ってしまったために、
恥ずかしくってやってられなくなったんじゃあ‥‥

勘ぐりたくもなりますがね。
ところがまた先月、
そのメニューが突然復活したようです。
なんだかブレてますね、あの会社。
ま、それはさておき、
接客業やサービス業では、
笑顔は欠かせません。
いちばん大事な素養のひとつです。
ほんとうは職種に関係なく大切なものなのですが、
人と接するコミュニケーションの場においては、
特に、特に、特に、大切とされています。
だから、ややこしい。
人の心をハッピーにするはずの笑顔が、
実は反対に、
多くの人にとってすごく大きな心の負担になっている。
いつも朗らかで人気者でモテモテなあなたにとってみれば、
信じられないことかもしれませんが、
正直に微笑むことができない人が7割以上いるのです。
電車とかバスに乗ってまわりを見渡してみれば一目瞭然ですが、
ふだんからあたりまえにニコニコしている人っていうのは
100人にひとり
か、
まぁせいぜいふたり。
そんな確率です。
あとの人は、
スイッチを入れるみたいにして必要に応じて笑顔になるか、
そのスイッチの入れ方がわからないから笑顔が苦手になるか。
中には確信犯的に、
「ここじゃ笑いたくないから笑わない」っていうタイプもいます。
本人いわく
>楽しいときはちゃんと笑える。
>わたしが笑えないのはこの職場の雰囲気のせい。

ってことらしいんですけど。
組織としてはこういうのがいちばん厄介です。
辞めてもらうのが本人のためにもいちばんいいかもです。
表情っていうのは心の状態があらわれます。
情が表れるから表情っていうんですもんね。
心が未成熟でしんどい人は、
やっぱり表情もしんどくなる。
心がおもしろくなければ顔もおもしろくない。
>笑顔しろ!
って命令してそいつが笑顔になるくらいなら、
なんの苦労もありません。
ただ口角を上げるだけの簡単なことができないんです。
10秒と持続できない。
口は横に開いたとしても目つきがどんより苦しそう‥‥とか。
これは、
わたし自身も経験してますからよーくわかります。
むかしサラリーマンだったとき、
営業部では笑顔は絶対でしたもんね。
さからえない強制命令でしたし、
ここぞとばかり徹底的にシゴかれました。
素直じゃなかったわたしにはスマイルはちっとも身につかず、
辞表を書いた理由のひとつになりました。
>笑顔って
>とっても大切なんだよ(≡^∇^≡)

なんて
能天気にホザいているヤツを見ると、
ウザい、気持ち悪い、アホくさい、仲良くしたくない‥‥
と、
40歳をすぎてもまだ本気で思ってました。
(そんなわたしがいまじゃ部下に笑顔を注意している‥‥
ってのは宇宙の七不思議ですなあ。)

自分の心の向きとちがうことをやらされるのは苦痛です。
屈辱的と言えるほど大きな苦痛です。

しかも、
笑顔のないその社員は、
過去にも同じような注意を受け、
すでにトラウマ(心的外傷)を負っている可能性が高い。
本人はいたって「ふつう」な気分で「ふつう」な顔をしているつもりなのに、
まわりから見たら不機嫌そうに見えるってことで、
不機嫌な顔をするなと叱られる。
生意気だといっていじめられることもある。
こういう注意をね、
若いころからもう何百回、何千回とやられますとね、
ひねくれるなっていうほうが無理なくらい。
心はかなり深刻にへこたれてしまいます。
注意を与える側は2度や3度のことなので無責任なもんなんですけど、
いろんな人から同じことをくりかえし注意されるもんですから、
受けるほうは何百回、何千回と積もってきます。
このストレスは小さくありません。
何にも自信のもてない萎縮した人格ができあがってしまうでしょう。
ゆがんだ笑顔

クセになったりします。
あなたはだいじょうぶですか?
世の中ね、
いろんな人相がありますよ。
目尻が垂れ下がって丸顔の人──笑福亭鶴瓶さんとか──のように、
「ふつう」にしているだけで機嫌がよさそうに見えるタイプもある。
ヤクザみたいな顔つきの人は、
銭湯でシャンプーしてても怖い。
笑顔じゃないことを責められすぎる苦痛を味わっている人は、
実は世間で認識されているよりはるかに多い。
愛想がよくないことを気に病んでいる人は驚くほど多いです。
>自分は、
>いっしょにいて感じのいい人間じゃない

と、
あるときガツンと自覚してしまったその人たちは、
ある種のまずい行動パターンを取りがちです。
好かれるためにウソの笑顔をつくる
といったパターンです。
ふつうの自分には魅力がない。
ふつうにしてたら好かれない。

と、
こんな恐怖に従って取る行動パターンは、
かなり大切な原則にもとづいて、
たいてい悲劇的な結果を生んでしまいます。
その人は追いつめられてどんどん自分の魅力を過小評価し、
ますます好かれないことになるでしょう。
心のスタンバイができていない相手に、
笑顔を強制していると逆に性格に歪みが生じます。
>心が泣いているときでも顔ではニコニコしてろよ。
──なんていうのは
心が成熟した大人に対してだけ言ってもいいアドバイスです。
相手がプロならこれは当然のこととして注意していい。
しかし、
自分の気のもちようには責任がある
っていう言葉の意味もわからんガキんちょに、
笑顔なんて求めてはいけません。
強制したところで何も身につかない。
ガキんちょはガキんちょでも、
逆ギレするガキはまだ幸運。
居直ることで本人は救われますから。
>オレがどんな顔で街を歩こうがオレの勝手やろうが。
>いちいちエラそうにケチつけてんじゃねぇよ。
>しんどいときにしんどそうな顔して何が悪いんや?
>これがオレなんや。
>オレはこういう人間なんや。
>なんか文句あんのか?
>オッ?

──な~んて
厚かましく見栄が切れるってヤツは、
ある意味マシなんです。
居直ってしまえば、
あるていどは楽になれる。
もっとも
別の試練が別の場所で待っているのは確実ですが‥‥ね。
さあいずれにせよ、
こんな社員が笑顔を取り戻すまで、
あなたの会社は面倒みてあげられるんですか?
>そういう愛想の悪いやつは、
>笑顔のいらない部署にまわしときゃいい。
>1日じゅう削るだけとか運ぶだけ調べるだけとか、
>誰とも話す必要もないし笑顔なんか関係ない、
>そういう仕事をさせときゃいい。

‥‥っていう対処は、
ま、
それができる組織ならそれでいいかもしれません。
要は会社の育成方針として、
そこらへんが整理してありますかってことなんです。
与えた仕事をとりあえずこなしてくれたらそれでいい
ってことなのかどうか。
人は変わらない
という前提に立つのかどうか。
変わるという前提で育てるなら、
どんな制度でどのくらいの期間かけて育てるのか。
期待どおりの結果が出なければどうするのか。
真理からいえば、
どんな無愛想な人間でも、
ニコニコした仏さんみたいな人格に生まれ変わることはできます。
しかし経営者は心理セラピストではありません。
笑顔を忘れた人間に、
それを取り戻すまでカウンセリングを続けるわけにはいきません。
何年かかるかわからない話ですから。
人財育成をどう考えるのか。
どっちつかずの方針では、
お互いが傷つくことになりかねません。
結論としてはやはり──
どんな会社にしたいのか?
っていう問いかけへあなたが戻っていくことです。
それに尽きます。
こんな会社にしたい。
だからこんな人財が、
こんなふうに育ってほしい。
だからこういう評価制度を設けてうんぬんかんぬん‥‥
っていう順序でいくしかないんじゃないでしょうか。
わたしたちの会社ではそこのところ、
もう妥協しないことに決めました。
笑顔のない人には辞表を書いてもらいます。
ガキんちょが大人になるまで、
寛容に見守ってあげるだけの包容力が、
まだウチにはないと判断したからです。
笑顔のない人が、
どうしたら笑顔になれるか‥‥っていうテーマは、
また別のところで取りあげることにします。
「会社に来たら、絶対ニコニコしていろ」って、私はいつも言っています。
うちはブスーっとしているだけでクビなんです。
「私は何にもしていないのにクビになった」と言っても、しているんですよ。ブスっと。
ブスっとしているだけで、まわり近所は気分が悪くなるんです。
会社へ来たらニコニコとしているものなんです。
ここで飯食ってもいいけど、ここでウンコをしちゃいけないんだよ。
ウンコするんだったら、便所に行け。
それと同じことなんだよ。
「ウンコみたいなブスっとした顔するなら、便所から出てくるなよ」って、つね日頃から言っていなきゃ駄目なの。
これってね、大切なの。
うちの会社はこういう会社だって、つね日頃から言っていれば、みんなもそうだと思うのです。
これってね、大切なの。
そのお陰で、うちの会社はブスっとしててクビになった奴はひとりもいないんだよ。
ブスっとする前に言う、これが大切なんだ。
   ***
商人は笑顔しかないんだよ。
怒った顔もなければ、泣いた顔もない。
役者なんて、いろんな役やらなければならないんだよ。
商人はワンパターンでいいのに、なぜできないんだよって。役者だと思ってみろよって。
役者なら、どんな役だってやるんだよって。
商人は、笑顔しかないんだよ。
葬儀屋じゃないんだから、毎日ニコニコしていればいいんだよ。
こんな楽な仕事はないのです。
「なぜ、できないんだよ。それで、笑顔のつもりかよ」って。
「もっと笑って見えなければ駄目なんだよ。鏡見て研究しなよ」って。
「おまえのハーイ!はハーイ!になってないんだよ」って。
お客さんが来たとき、うれしそうな返事じゃなきゃ駄目なんだよ。
追求して追求して追求するから楽しいんだよ。
なんでもそうなんだよ。
斎藤一人「人生が全部うまくいく話」より