わが家の中学受験8か月 ── 短期決戦で逆転Vを狙うなら

短期集中で一気に逆転Vを狙うタイプの中学受験なら、わが家のケースは参考になるかもしれません。 6年の5月まで放任。子どもに勉強しろという親にはなりたくなかったからですが、それもまたエゴ。 圧縮された8か月の勝負をリアルに書いてみました。


これから受験本番を迎えられる方へ

これから中学受験本番というみなさんに向けて、
お役に立てる情報をひとかけらでも多く提供できるように、
まだ記憶が生々しいうちに、
思い出しながら書いてみることにします。
ここに書いてないことでも、
質問いただいたらぜんぶ答えます。
わが家のケースが、
どれだけ他のご家庭のケースに当てはまるかわかりませんが、
パターンが似ていたら参考にしていただける部分も増えますしね。
短期集中で一気にケリをつけたいタイプのおうちなら、
けっこう合うかもしれないです。
どれだけ一般的か例外的かはわかりませんが、
わたしと息子の受験は「8か月」の勝負でしたから。
とにかく偏差値が20ほど足りない状況で、
難関校を目指すことにしました。
「最難関」でも「超難関」でもないフツウの難関。)
関西ですから受験日は関東より早く、
1月中旬~下旬。
お正月気分はゼロですね。
結論からいいますと、
偏差値20以上のアップは半年では無理だったんですが、
8か月ならギリギリ達成可能。
いけます。
早くから勉強を始めていたライバルをゴボウ抜きして、
なかなか鮮やかな逆転Vが──
できます。
>男の子、ガッツありますよ。
>まだまだ伸びます。
>最後の2か月でもぜんぜん変わります。

って、
勉強スタートしたころ、
何人かの先輩経験者に励まされました。
女の子とは伸び方がちがうんでしょうか?
そのへんはよくわかりませんが、
たしかに、
短い期間でずいぶんたくましくなったのは確かです。
目指すは、
第一志望校合格ただひとつ。
──ですよね。
実際に合否発表の日を迎えてみると、
きれいごとはぜんぶブッ飛びます。
合格じゃないと意味ない!
──と。
これまでの努力がぜんぶ無意味だ!
──と。
合格を目標にがんばるからには、
やはり合格しないと意味ないです。
気休めなんていりません。
たとえ不合格という結果が出ても、
人生が全否定されるわけじゃない──
ってのは確かに真理ではありますが、
無茶かもしれない勝負をやらせるからには親子の信頼関係にヒビが入ることも覚悟の上。
勝つために闘いましょう。
受かっても受からなくても、
息子のミチハル(仮名)にベストを尽くすことの意味を教えてやれたらって気持ちでしたが、
いざ本番になったらそんなんじゃないです。
1回めの試験が不合格とわかったときは家族全員がっくり。
心折れてめそめそ泣くミチハルの心を立て直そうとするわたし自身の心も
半分ほど折れていました。
弟の応援のために、
帰ってきてくれた長女(ふだんは寮生活)も、
言葉少なですがどすーんとショゲていました。
掲示板は妻と2人で見に行ったのですが、
そこに息子の番号がないとわかった瞬間の、
あのなんともいえない気持ちの急降下は耐え難いものです。
奈落の底
って、
まさにこんな感じじゃないかと思う。
あまりにもこの瞬間が怖すぎて、
全力を出し切る勝負ができないご家庭も多いのではないでしょうか。
正直、ミチハルの落胆ぶりは想像以上で、
ショックのあまり何もしゃべれなくなってました。
受験会場からわたしと2人で電車に乗って帰るあいだ、
泣きそうになるのを必死にこらえていたんでしょう。
マンションのエレベータを降りたところでもう嗚咽が止まらなくなっていたので、
非常階段に押しこめて、
泣きやむまで家に入れないことにしたくらいです。
落ちたからってめそめそ泣くのはかっこよくないと教える。
残酷ですけど、
こういうときしか学べないのだし。
この苦々しい経験が血肉になるのは確か。
やさしい言葉をかけてやるのもいいけれど、
やっぱり合格を目標にがんばってきたからには、
合格してないとダメなんだ。
努力したことの意味はいくらでも見つけられるでしょうけど、
ここで勝つことの意味は勝つことでしか教えられない。
勝利の味は勝利でしか味わえない。
だから、
勝つために闘いましょう。

直前期の対策

本番1か月を切ると、
いかにも直前って感じで、
気持ちがビリビリしてきます。
塾のほうでも、
直前対策の特別コースが組まれたりとか。
(うちは馬渕教室に行かせてました。
大阪、京都、兵庫、奈良が中心で、
関東の方にはほとんどなじみがないですね。)

わたしはいつもの習慣みたいなもんですから、
意識してなくても楽観的なほうへ想念がととのっていまして、
勉強の中味にはもう何も口出しすることないです。
プロを信じて、
すべて塾におまかせするのがいちばん。
微塵でも、
あとで不合格を塾のせいにするなんて言語道断ですよ。
そういうメンタルが本番前にかけらでも残っていたなら、
親の姑息な姿勢がわが子を不合格にしたと考えるべきです。
合う、合わない、ありましょうけど、
塾の先生方にも子どもたちと同じようにベストを尽くしていただくことが肝心ですから、
全力で取り組みやすいように、
あたたかい気持ちで応援しあうことです。
親が先生とガッチリ手を取りあって一体となって応援している感じが、
そのままモロに子どもに伝わっていくと思うんです。
男の子は単純だからよけいにそのはずです。
もうね、
それまでの人生でありえなかったくらいの大応援団が、
自分の背中のうしろにドーンとついてる実感。
そうすると、
気合いが乗りっぱなしになってくる。
モチベーションがぜんぜん揺らがないなら、
勉強のほうはほっとけるんですね。
そうなるとあとは体調管理でしょう。
いちばんありがちで怖いのは風邪ですから、
学校なんて行かせてる場合じゃないですね。
子どもは行きたがりますけど、
学校がどんだけムダかっていうことについては、
何か月も前からだんだんと刷りこんでいく。
短期決戦組は特にそうです。
時間のムダづかいについて、
本人にも考えさせてみたらいいですけど、
小学校はムダのかたまりです。
学級はとっくに崩壊してるし、
難関中学を受験する生徒はクラスにせいぜい3人くらいで圧倒的な少数派ですし、
担任は応援してるんだか邪魔したいんだか、
つかみどころないし‥‥
ま、
そのへんの環境は学校ごとにぜんぜんちがうでしょうから、
あなたの場合に当てはまるかどうかわかりませんが、
短い時間で急激に成績を上げていかないと先行してる子どもたちに勝てないんですから、
12月に入ったら週3日は休ませるつもりでいいでしょう。
(わたしは自分の大学受験のとき、イナカの県立高校だったせいもあって、
世界史とか物理とか、受験と関係ない授業でもずーっと受けさせられて、
性格が歪むくらい苦痛で苦痛でバカらしくてしかたがありませんでしたから、
学校なんてクソだという恨み節が強烈に染みてるんですね。)

志望校が内申書の提出を求めているかどうかは考慮すべきポイントですけど、
内申書を出さないってことであれば、
小学校の欠席日数はとりあえず合否に影響しないわけですから、
もうどうでもいいじゃないですか。
いかに子どもに罪の意識をもたせずに学校を休ませるか
それが親の務めだと割り切っていいですね。
使命感のない公務員ばっかりの小学校なんてどうでもいいんで、
頼りにすべきは塾ですよ。
志望校を最終決定して受験日程を組む12月の保護者面談で、
本命校が実施する3回の試験をすべて受けると決めました。
塾の校長からも、
じゅうぶん合格できるレベルまで来てるから、
ぜひ3回とも受けたほうがいいと励まされました。
第二志望以下の中学校を受けるチャンスが減るわけで、
リスクは高まりますが、
父親のわたしが決めました。
実は11月に受けた最後の公開模試の結果でも、
まだ目標偏差値に5~7ポイントくらい足りず、
志望校は「B」「C」の判定。
(同じ志望校の中にレベルの高いクラスとそうでないクラスの2パターンがあるためです。)
得意の算数で大きなミスをしたらしいんですが、
逆に苦手な理科では過去最高。
>これを本人のベストとは考えないほうがいいです。

ていう先生のコメントを聞くまでもなく、
わたしの気持ちもぐんぐん乗ってきてました。
>な、先生、言うたとおり、
>わたしの読みどおりですやろ。
>計画どおり、
>ラストスパートでまだ伸びまっせ、あいつは。
>スタミナ残ってるんで。

──わたしは頭の中で、
息子の各科目のベストスコアをつなぎあわせてるので、
気分的には「A」判定だったんです。
本番ではベストが出るっていう前提なんで、
タラレバ
大いにけっこうでしょう。
この計算でミスしてなかっ「タラ」
苦手な分野からの出題じゃなけ「レバ」
偏差値プラス5で「A」判定やった「はず」や!
──みたいな。
ずっと右肩上がりできてますから、
負ける気がしないんですね。
7月の保護者面談で「E」判定だったころ、
>先生、頼んまっせ。
>鼻血出してぶっ倒れるまでやってもらっていいんで。
>わたしもそこまで本人にやらせるつもりなんで。

って、
戦争突入宣言したことを思い出します。
急にコワいおっさんが乗りこんできて、
コワい顔して睨みつけてキッパリ断言。
ビシバシやってもらってかまいませんからねっていう、
これは塾に対する100%の意思表示。
両親がそろって保護者面談に出向き、
家族が一枚岩であることを伝える。
これ大事。
親がどう考えて取り組むつもりか、
はっきりわかる。
息子と親とがどんなやりとりをしているか、
家庭の空気が伝わる。
これで塾と親とのタッグが成立する。
そこから想いをひとつにしてやってきてますから、
塾のアドバイスは親として100%尊重しますし、
先生のほうでも息子の内面まで含めた好不調が手に取るようにわかる。
そんな空気感が、
子どもにとってもすごく大事です。

短期集中決戦の良かった点

残り240日、約38週間は、
非常に短いと感じました。
たった240日しかない、
と。
いままでぼんやり生きてきたってことは、
いわば休養たっぷりで疲れがないわけで、
めいっぱい詰めこんでもだいじょうぶだろうと判断しました。
4年から始めた子どもたちは、
もうすでに2年間みっちりがんばってきてる。
5年から始めたら1年間。
早く始めた分だけ成績は早く上がっているけど、
それだけ疲れがたまっているにちがいないと考えた。
(自分に都合のいいように解釈しただけですけど。)
わたしは趣味でマラソン走りますので、
なんでもマラソンになぞらえるんですが、
スタートから調子よく飛ばしているランナーが、
35キロ超えてから急に走れなくなることってほんとうによくあるんです。
いわゆる30キロの壁とか
35キロの壁っていうやつですね。
息子にもそれを教えて暗示をかけた。
>前を走っている連中はもうヘトヘトだ。
>その点、おまえはスタミナじゅうぶんだ。
>ちょっと走っただけで、すぐ前のヤツを追い抜ける。
>抜かれたほうは焦ってガックリして落ちていくで。

いままで徐行運転だった車のが急にアクセル踏みこんだら、
あたりまえですがグッとスピード出ます。
成績がグッと上がる実感が本人にもある。
いままでができなさすぎただけに、
>もしかして、
>やればできる子なのかなボク?

って、
本人が錯覚を起こす。
この錯覚を親や塾がうまく利用して、
本人をおだてて乗せていくことが大事だとわたしは思う。
まだこの時点では、
ほんとうはどうなのかわからないんです。
どこまで伸びる子なのか、
本人も、親も、塾の先生も、誰もわからない。
いちども本気を出してないとはそういうこと。
しかし確実にいえることは、
成績は上がり始めるということ。
だから、
なだめたり、すかしたり、
やったらできたという実感をムダにしないように、
何かが変わりはじめた感覚を喜びに変えて、
とにかく勉強グセに結びつけることが肝心。
親として、
受験期間中ずーっと意識していたことは、
息子といっしょに風呂に入ることです。
週に3~4日、
5割よりちょっと多いくらいですけど、
多いんですよ、これでも、わが家にしては。
試験が近づくほど、
息子の帰宅時間はどんどん遅くなります。
塾の授業は夜10時まであるし、
講義が早く終わる日や塾のない日でも自習室に残って勉強してるので、
親のわたしより帰宅が後になることもしょっちゅうでしたから、
わたしが風呂の時間を遅らせたらいっしょに風呂に入れた。
男同士、
裸のつきあいってやつで、
いっぱいしゃべれた
わたしもなんだか楽しかった。
小テストの点数が悪くて自信なくしてる感じの夜は、
>あーそれはなぁ、おまえがなぁ、
>先週のあれ、パパの言うとおりにせんかったからや。

とかなんとか。
ちょっと気をつけたら直せるくらいの具体的な原因を、
こじつけで作ってやる。
逆に、
いい点数が何回か続いて油断してしまいそうなときは、
>それ、おまえ、
>得意の単元が続いただけちゃうか?
>そういうの、まぐれっていうねんで。

って。
とにかく上げたり下げたり、
メンタルコーチをやり続けた。
傾聴の学びがこんなところで活かされたんですなぁ。
体力勝負やでってことで、
ジョギングもいっしょにしました。
8か月のあいだ、
息抜きになるような娯楽はほとんどなく、
ミチハルは勉強しかしてません。
が、
一瞬でも偏差値60超えてくれよっていうわたしの焦りをよそに、
息子のモチベーションはずっと高いまま持続してました。
本人の実感としては上出来だったからでしょうね。
自分がそこまでやれると思ってなかった予想外の成績が取れだして、
塾のクラスで2番、3番になれるだけでも嬉しくて、
わからないところを先生に質問したりするのも新鮮で楽しかったんでしょう。
わたしの予言がすべて当たるので、
親父に対する信頼感は絶大でした。
ほんとうは予言じゃなくて単純な暗示だったんですが、
暗示に引っかかってがんばるから予言が事実になっていくっていうくりかえし。
短期決戦は立ち止まって反省とか何もなく、
イケイケの一本調子で突っ切るにかぎります。
試験が終わっても自己暗示だけは続けさせてますけども、
気の持ちようがいちばん大切なんだってことが、
揺るぎない確信となったことでしょう。
しあわせなヤツですね。

スタート初期のポイント

受験に介入しはじめた5月ごろ、
ミチハルの字が汚いのに参りました。
罫線に沿ってないし、枠の中に収まってないし、
上下左右に歪みまくり。
筆圧が弱くて薄くて、
まさにミミズがのたくったような文字で判読できない。
もうそれだけで、
勉強できない子ってわかる。
生き抜く力すら感じない。
いっぱい書けばそれだけ脳が鍛えられるのに、
そもそも文字を書く習慣がない。
わたしの危機感はハンパじゃなく、
そっからやーっ!
って、
頭に血が上ってカッカしました。
計画表を作らせたり、
一日のふりかえりを「気持ちことば」を入れて書かせたり、
とにかく文字をいっぱい書かせようとしてみたら、
日本語表現がめちゃめちゃだということがわかってさらに愕然としました。
習った漢字の読み書きはできるし、
けっこう難しい四字熟語も知ってるんですけども、
作文をさせてみると文章になってない。
句読点の打ち方にしても統一感がないというか、
行き当たりばったりで何も考えてない。
読解力がぜんぜんないやないか
ってことに気づいて真っ青に。
──国語がヤバい!
理科は暗記科目だから直前の詰め込みでごまかせそうだし、
算数も半年あれば挽回できるかもしれないが、
国語はそうはいかない。
短期決戦の泣き所は国語です。
塾のテキストだけでいっぱいいっぱいなのはわかってましたが、
どうしても自分で把握しておきたくて買った問題集がこれ。
「中学入試を制する国語の『読みテク』トレーニング 説明文・論説文」
作者のいちばん言いたいことを、
たったひとつの文に集約する訓練ができる。
ミチハルに欠けている能力を、
これで補強する作戦でした。
どれだけ長い論説文でも、
枝葉を削って削って、
けっきょく言いたいことを絞っていくと、
80文字、100文字にまとめられる。
理科でも算数でも、
問題の意図が汲めなければ解けるはずがないので、
読解力はすべての土台。
そこが欠落してるってことは、
かなりヤバいんです。
>ええか、おまえの成績が上がらんのは国語の読解力がないからや。
>算数も理科もあとまわしで、まずは国語からや。
>わかったな。
>塾の宿題より、パパがやれっていうたとこ先にやれ。

このころ息子は、
塾の先生と、親と、どっちを信用したらいいかわからず、
宿題ができてなかったらどっちからも叱られるんで、
かなりたいへんだったらしい。
>いままで塾のいうとおりにやってきてその成績やろ。
>塾じゃダメやってことやないか。
>そんな塾、行かんほうがマシじゃ。
>わかったか。
>ええからパパの言うとおりやれ。

とにかくやり方を変えることが最優先の強制介入ですからな、
ガンガン叱られて怖かったでしょうね。
わたし自身も焦ってましたから言い方もキツい。
5月から6月、
実際にかなり時間を割いて、
いっしょに国語の勉強をしました。
息子が小学校を休む日に合わせ、
わたしも会社を何日も休みました。
何かしないとヤバいという気持ちの反面、
やりすぎたら潰してしまうこともわかってました。
しかし、
これを乗り切れなければ合格はない。
いろいろ干渉すると逆効果なので、
国語の読解力を引き上げることだけに絞りました。
(ていうか、算数や理科はむずかしすぎて、
どっちみち教えられなかっただけですが。)

ふりかえってみれば、
いっしょに勉強したといえるのは「読みテク」だけでしたけど、
受験うんぬんよりも、
正しい日本語を教えなければっていう気持ちのほうが強かったかもしれません。
「読みテク」
全体の7割ほどやったころでしょうか。
大事なセンテンスが見抜けるようになったんです。
>あ?
>なんかコツつかめたのかな?

って感じが、
ある日、パッと急に来ました。
1回わかると、
あとぜんぶわかる。
おー、すげぇーL(・o・)」
たったそれだけの変化なんですけど、
もうだいじょうぶちゃうかなって気になりました。
なんか、
親父のミッションあっさり完了なんです。
夏休みに入る前にはもう、
勉強の中味に割り込むことはなくなってましたね。

合格の喜び

第一志望校の試験を3回とも受けたミチハルは、
2回めの試験で合格することができました。
1回め不合格でズタボロに打ちのめされて大泣きしてから25時間後、
ほんとうに嬉しい瞬間でした。
ミチハルにわたしのスマホで塾に電話かけさせたんですが、
指がふるえてボタンが押せなかったくらい。
日々めまぐるしく感情が揺れ動くこの時期、
ミチハルには小まめに日記を書かせました。
受験本番の前の日も当日も、
不合格で落ちこんだ日も、合格で飛び上がった日も、
正直な気持ちを日記につけとけと言いました。
宝物になるから、
あとで必ず役に立つから、
と。
何をどんなふうに書き残したか、
見たりしませんから知りませんけど。
仲のいい受験友だちの大半が、
残念な結果に終わってしまいました。
合格の可能性がいちばん低いと見られていたミチハルにしてみたら、
下馬評がひっくりかえってしまったわけで、
かなり意外な結末。
喜びたいけど喜べない複雑な心境。
そういうのもとにかく日記に書いとけよ、
とだけ。
1回めが不合格で大泣きしたおかげで、
合格できなかった子の気持ちがちょっとでもわかる、
それって大事なことなんやで、
だから浮かれるなよ。
中学校が発表している合格最低ラインの得点、平均点などから察するに、
合格者の中ではミチハルは下位2割の中に辛うじて入ってるくらいだと思われます。
スランプを感じた期間は2度ほどありましたが、
ほぼ一本調子の右肩上がりで、
最後の最後まで上げて上げて上げて追い上げて、
ギリギリすべりこみで合格ラインに到達できた感じじゃないでしょうか。
大金星の大健闘なんですけど、
不合格の苦さ、悔しさ、悲しさ‥‥も
同時に少しでも味わったことがとても貴重。
しょうもない同情は全力を尽くした相手に失礼になりますから、
ただリスペクトを忘れず、
健闘をたたえあう気持ちが大切。
成績上位の友だちに、
バカにされることが多かったミチハルですが、
もうこれから先はそれもなくなるでしょう。
難関校に合格したから
ではなくて、
成功体験によって本人のセルフイメージが変わるからですね。
わたしが息子に味わわせてやりたかったのは、
まさにこの感じなのだし。
このチャンスを逃していても、
あきらめなかったでしょうけども、
とりあえずこの1回でじゅうぶんです。
ここから勝ちグセがついていきます。

本人語録

合格発表が終わってからきょうまで、
わたしが本人の口から聞いた言葉の中で印象的なものをいくつか──
>勉強することはしんどいけど、
>勉強していることはしんどくない。

──??
これはね、
パッと聞くとなんのことか意味わかりませんでしたけどミチハルの名言ですよ。
>勉強はな、
>してない状態からしている状態に入るときがしんどいってわかってん。
>勉強してるときはしんどくないねん。
>だから自習室があってよかったわ。
>自習室に入ったら、
>勉強してない状態から勉強している状態に変われるやろ。

──うんうん。
これは勉強だけにかぎったことじゃなく、
大人になっても何にでもあてはまることですから、
すごくいいところに気づいたなって感心したんですけども。
塾の価値の半分は自習室にあるんちゃうかと思いますよね。
いやでも勉強しかできない環境が、
意志の不足分を補ってくれる。
朝イチから閉館時間まで、
図書館にこもって勉強した経験がわたしにもあります。
授業のない日でも、
>自習室は開けてますから

て先生が強調してたのもうなづけます。
ところが、
自習室でもおしゃべりしてたりガサガサしたり、
話しかけてきて邪魔するタイプが必ずいます。
息子の場合、
Tくんっていう天敵みたいな存在が同じ塾にいて、
とにかくうっとおしかったらしい。
もともといじめられやすいキャラでしたし、
ずーっとTくんより成績は下だったわけですし。
>Tの言うことを受け流せたんが正解やったわ。
>あいつの相手になってたら合格は無理やったな。

──おー、
親のわたしがいちばん痛快だったのはここですよ。
神さまってね、
きっちり見てるなぁと思いましたね。
Tくんは本命残念組だったんですけども、
彼にとって格下のミチハルがまさか難関校を受験するなんて想定外、
合格するなんてまさかまさかの衝撃だったようで、
いまはもうちょっかい出してくるどころか、
目を合わせることすらなくなったらしい。
ミチハルは別に彼と勝負してたつもりじゃなかったが、
あっちが勝手に見下していたもんだから、
結果として力関係が逆転してしまって関わりが消えた。
「反面教師」っていう言葉を覚えてから、
ミチハルの心がみるみる強くなった話をまえにしましたが、
自習室も同じ。
自分が集中したくても、
まわりがガチャガチャするせいで気が散るなんてこと、
現実社会もよくあるし大人になってもある。
だからそういうのは逆に、
集中力を鍛えるためのいい機会だと考えたらいいと教えた。
周囲の雑音に負けるってことは自分の責任なんで、
勉強できないことをまわりのせいにするな、
相手にしないで受け流せと教えた。
子どもは素直だから飲みこみ早いです。
「受け流す」って、
小学生にしてはむずかしい心の使い方だと思いますけど、
わたしがしょっちゅうその言いまわしを使うので、
素直に聞いているうちに、
かなりのところでニュアンスがわかってきて心の耳栓もできるようになった。
性悪な友だちひとりの存在で、
人生ぶちこわしってことが現実問題としては数え切れないほどありますね。
親の立場としては耐えがたいので、
それだけで転塾の理由にもなるでしょう。
でも、
けっきょく理不尽からは逃げ切れません。
心の鍛錬だけは、
できるかぎり早く始めておくに越したことはありません。
>ボクの受験はな、
>はじめと最後がいちばんしんどかったわ。
>あとは楽しかったなあ。

受験が終わって腑抜けのように燃え尽きたミチハルが、
しみじみ語ったひとことです。
5月から6月にかけては、
毎日パパに叱られていた記憶しかないらしいんですね。
「叱られた」というより「脅された」が正しいかもしれません。
DSもiPadもベイブレードも取り上げられて、
学校は休め、塾もやめさせるぞ、
毎日「読みテク」1日1問やれ‥‥って、
絶対服従するしかない命令が矢継ぎ早に飛んでくるんですからなあ。
>受験が終わったら遊びたいこといっぱいあったけど、
>終わってみたらなーんもする気になれへんわ。
>意図をもって何かするっていうほうが楽しいねんなあ。

──うん、そうや、
そのとおりやとパパも思うぞ。
きょうは塾が主催の合格祝賀会。
>これでほんまにぜんぶ終わったなあって感じやわ。
──ですて。