息子の中学受験に首を突っこむ

子どもに勉強しろと親が口出しすることに抵抗を感じるタイプでしたが、「下剋上受験」の影響も受け、長男の中学受験に首を突っこむことにしました。 親が子どもに関わるのは当然、それどころか合否は親で決まるという過激な風潮に対しても葛藤はありますが、やるからにはとことんです。

息子のミチハル(仮名)が、
小学校6年になって初めて受けた公開模試で、
悲惨な結果が出てしまいました。
3科目とも平均に遠く及ばず、
偏差値は40すれすれ。
これを「悲惨」と形容するのはわたしの勝手な価値観かもしれませんが、
本人も大泣きしてベコベコに凹んでいるのも事実。
1年まえ(5年の春)の公開模試が本人のベストスコアで、
偏差値50台の中ほどの成績を取ってましたので、
なんとなく親としても安心はしていたのに、
あのときだけが一発屋のまぐれ当たりだったのか、
そこからはずっと下がりっぱなし。
あと8か月──
だいぶ出遅れたことはわかってますが、
いまさら息子の中学受験に首を突っこむことにしました。
受験スイッチ「オン」です。
出遅れた理由は‥‥?
長女のナツハ(2つ上のお姉ちゃん/仮名)がわりとしっかりしてて、
ほったらかしでもマイペースでちゃんとやってたからでしょうか。
勉強のことはひとことも言わなくて済みました。
息子もそんなふうに‥‥と安直に期待していたのですが、
どうもそんなわけにはいかんようですな。
いつまでたっても海面すれすれの低空飛行が続いていたのが、
このたびとうとう撃沈‥‥というわけで、
見るに見かねてついに「干渉」を。
これは親のエゴか愛情か。
子どものやることに親が口出しするなんてって思ってきたタイプなので、
それなりの葛藤はありますし、
深入りは固く自制しますけど、
いっしょにすごす時間が長くなることは確か。
息子にとってはそれがますますストレスになることも確かなので、
かなり危険なせめぎあいですね。
残された時間で、
さて、
どこまで挽回できるんでしょうか。

長女はほったらかしでも楽勝だったのに

長女のナツハは、
ほんとうにほとんど手のかからない子で、
入りたい中学校も早くから自分で決めて、
ぜんぜん危なげない成績で併願校の受験もせず、
とっととマイペースで合格してしまいました。
もっとも、
寮に入りたいというのが中学校選びの動機のすべてですから、
偏差値も何も関係なかったんです。
女子が入れる寮のある中学校って、
そんなにたくさんありませんから、
迷う余地もなかったし。
ちなみに、
入学後もめちゃめちゃ楽しんでいるようで、
1年たったいまもどうやら成績も優秀っぽいし、
なんの心配もしてません。
お金のことをあまり考えていなかったわたしは
いまさら青ざめたりしてるんですが、
ま、
娘がしあわせそうにしてるんだったらすべてよしとしましょう。
制服もかわいくて100点満点以上の大満足で、
ときどき送ってくるLINEのメッセージもハッピー感があふれてるんですから、
さすがオレのDNA!
って感じなんです。
それが油断の一因となったとは思いたくないのですが、
男の子はちがうんですな。
ただでさえ、
女親からすると手こずる存在。
ケンカも大マジで、
ヒステリックにわめきあいすることがたびたびあります。
わたしがいるところではあまりケンカしないので、
実際に現場を目撃した回数の10倍くらいは激しいバトルをくりひろげていたでしょう。
わたしは家のことは専業主婦の妻に任せてます。
妻はわたしが外ですることには一切かかわらないし、
わたしは妻が家ですることには一切かかわらない。
──じゃあ息子の中学受験は?
どっちかつーと妻の管轄やろって思うし、
かかわらずに済むならかかわってなかったでしょうね。
なんかね、
仕事だけしておくっていうのが楽ですしね。
自分がかかわらず、
ほっといてもうまくいくことならほっとくのがいちばん。
じゃあ妻に任せていたかというと、
それもちがいます。
うちの嫁さんは自分が高卒っていうこともあって、
受験経験がないっていう引け目があるんだかどうなんだか、
やる気のない者にやる気を出させてどうこうするっていう発想が根っからない。
そんな嫁さんハナっからあてにしてませんから、
てことは平たくいうと、
塾まかせにしてたってことなんですね。

塾まかせではあきません

中学受験にはその程度の関心しかなかったことは反省点ですが、
進学塾に通わせていると、
それだけで一定の安心感がありましたね。
ミチハルは馬渕教室に行かせてますけど、
浜学園とか日能研とか、
歩いて15分ほどで通える範囲に他にも選択肢はありましたが、
お姉ちゃんも馬渕でお世話になってたし、
特に不満もありませんでした。
塾を選んだのは家内ですが、
あまり深い意味はないと思います。
そういうところの情報収集は、
ママさんネットワークが最強。
塾自体の良し悪しよりも何よりも、
ママさんどうしの人間関係とか、
それに影響を受けざるをえない子どもどうしの仲間関係とか、
そのへんの兼ねあいで決めておくのが無難。
なので必然的にわたしはノータッチですし、
そもそもズバ抜けた名門校に行かせようと思っているわけでもなく、
たいした興味もない。
本人がベストを尽くしているかどうか、
だらだらしてて後悔しないか、
そういうところだけは押さえておきたかったけれど、
小学生ってだいたいがどんな程度なのかわからなかったし、
現実としては自由放任。
5年生までは、
ゲームばっかりしてるとわかっていても特にそれを咎めることもせず、
干渉もしませんでした。
塾に通わせてるだけで、
それっぽく勉強してるように見えるもんなんです。
女親はもっと生活の身近なところでじっと見てますけど、
オヤジは断片的にしか見てませんから、
たまにいっしょに風呂で会話しても、
本人ががんばってるといえばそうなんだろうなと。
どんな試験がいつあって、
その結果の偏差値にどんな意味があるのかさえ、
ちゃんと把握してませんでした。
6年生になって、
本人が期待していたよりもずいぶんひどい成績が出て、
大泣きする息子を見て、
初めて慌てたわけですね。

ドラマ「下剋上受験」にガツンとやられる

受験スイッチがオンに入る4月下旬までは、
息子の勉強は塾任せでほったらかし。
勉強しろとは言いたくなかったので言わなかったんですが、
気持ちとしてはやっぱり勉強してほしいので、
それとなくまわりくどく、
自発的に本人のモチベーションが上がるようにもっていく努力はしてました。
そのひとつが
「下剋上受験」っていうドラマをいっしょに見ること。
2017年1月から放送された中学受験がテーマのドラマで、
出演は阿部サダヲさん、深田恭子さんとか。
両親がどっちも中卒で、
はじめはものすごく偏差値が低くて、
中学校を受験すること自体がおかしいんじゃないのっていう家庭。
お父さんは仕事も辞めて娘につきっきりで猛勉強して、
超難関校に合格させてしまうという実話に基づいたドラマ。
そういうストーリーなら、
見てるだけでモチベーション上がるかなと思って、
いっしょに見ようかって誘ってみたんです。
が、
ためしに第1話は見てみたものの、
本人なにも響かずそのまま頓挫。
たぶん、
まだのんきに遊んでる時期だったし、
受験とかを意識するのもいやだったんでしょう。
本人がいやがってるものを、
押しつけるわけにもいかないし、
しかたがないので2話以降は録画だけして放置してました。
それを、
受験スイッチが入ってから再開したんです。
録画してたまってたやつを、
日曜日にまとめて見るわけですが、
あれを見てるうちにわたしのほうがモチベーション上がってしまったんですね。
中学受験のこと、
自分は何も知らなさすぎる!
ドラマの原作も読んでしまいましたし、
桜井信一さんの別の著書「桜井さん、うちの子受かりますか?」も読みました。
「中学受験は親が9割」
なんていう
恐ろしいタイトルの本も読みました。
親として何をすべきか?
はたまた、
何をすべきでないか?
ほんとうに知らないことばっかりだったんですけども、
真摯に向きあいました。
ここ数年、
会社で新卒採用を続けていて、
親が子どもの就活に口出しするのを見苦しいと感じていたこともあり、
いざ自分が子どもの勉強に干渉する立場になってみると、
自己嫌悪がわいてきてました。
親の意見で簡単に人生を左右される若い社員には、
深く幻滅しましたし。
だから、
親が子どもに干渉すること全般に対して否定的だったと思うんですけども、
「下剋上受験」でそれが変わりました。
>ほったらかしでええわけないわ

思った。
親の干渉が気に入らなかったら、
それを食い破るくらいの力をつけて、
やがて親と真っ向から戦う日が来たら、
ブチのめしてでも自分の道を行く。
──そのくらいの気概がもしなかったとしたら、
どっちみちだめや。
別の人間にもっと薄情な動機で操られて、
自分のことを自分で決められない情けない大人になるだけや。
そんな情けないやつにしないためにも、
ここは「介入」や。
その判断を下すのに、
背中を押してくれた文章が桜井さんの本の中にあります。
 小学生という心身ともに成長しなければならないこの時期に、遊びを奪い睡眠を奪う中学受験。これを虐待だという人がいる。
 わたしはむしろ逆ではないかとさえ思うのだ。
 まだ10歳や11歳の子が、ライフデザインを持ち、今を頑張れるだろうか。中卒のような極端な例は別にしたとしても、高校を出てそのまま就職するとどうなるのか、大半はどうなるのか、大人はみんな知っているはずだ。
 そこから先の人生はかなり長く、逆転はほぼ難しいことも大人はみんな知っている。自分の今の人生に満足している人ってどれくらいいるのだろう。満足していない原因をどのように分析しているのだろう。社会が悪いのかそれとも自分が悪いのか。
 もし、そこに後悔があるのならば、そのやり直したい時期とは正に子どもの頃ではないのだろうか。その時期にどの程度の判断能力があるというのだ。判断能力が乏しかったからこそ、大人になった今の判断能力を持ったまま時間だけを巻き戻したいと思っているのではないだろうか。
 しかし実際にはそれはできない。勉強することの大切さを大人になってから気付かされる。後の祭りだと気付かされる。もう今更嘆いても遅いよと囁かれる。小学生の睡眠時間を2時間減らすことが虐待だと考える人は、大人になり定年までの40年間を惰性で生きていく運命になること、眠れないほど将来の不安が襲ってくることをどう考えているのだろう。桜井信一「下剋上受験 – 両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!」より

けっきょくは心の強さで決まる

エゴか、
愛情か‥‥
そこの見極めを誤ると、
やはり親子関係にヒビが入ることになるでしょうね。
干渉すると決めたものの、
過干渉だけは絶対に避けたい。
さいわい、
家にいる時間がそんなに長くないので、
早く帰ってきても息子が塾でいないとか、
すれ違いも多いから、
べったりくっついていっしょに勉強するようなことはできない。
同じ問題をいっしょになって解くようなことはないだろうし、
そんな関わり方を想定しているわけではない。
じゃあけっきょく、
オヤジとして干渉するってナニをすることよ?
──ってことになるんですが、
そりゃまぁやっぱり‥‥精神論からでしょうよ。
よその家庭ではどうかしりませんけども、
そこはキクゾウ家ですから、
受験だろうがなんだろうが、
もう100%心の強さだけで乗り切る。
精神論っていっても
>根性だ!気合いだ!
>やればできるぞ!

ってやつじゃありません。
もっと静かなやつ。
頭の中も心の中も、
きれいにすっきり整理整頓すれば、
本人の持っている力がベストに発揮されて、
ベストな結果があらわれる。
そう信じているんですから。
そこでまず、
わたしが口出ししたのは部屋の掃除。
それから
机まわりの整理整頓を徹底的にやらせた。
>よし、
>きょうから戦争やぞ

と、
息子にゲキを飛ばした初日の、
これが最初の「命令」でしたね。
>身のまわりをきれいにかたづけろ。
>引き出しの中がごちゃごちゃしたヤツは頭の中もごちゃごちゃや。
>そんなヤツの成績が上がるわけないやろ。

命令っていうのは上からでよくないですから、
約束させるっていう感じでおだやかに言わないといけませんけども、
最初ですから特別に厳しく。
「戦争」なんてぶっそうなたとえ、
そりゃしないほうがいいに決まってますけども、
なんせ本人が意気消沈してたもんですから、
そこはショック療法みたいなもんでガーンと。
叱り方とほめ方のバランスには、
ひときわ神経質な配慮が必要ですけども、
わが家の場合はもうオヤジは怖いものってことは隠しようのない事実ですし、
ごまかしてもしょうがないので。
あー、それから、
まあとにかく、
ゲームはやめさせることにしました。
親の目から見たらこんなもんは論外なんですけども、
>受験が終わるまではやめたほうがいいんじゃないのか?
っていう程度の、
やんわりした言い方で「提案」してみました。
なんでもかんでも命令形でやめろと言いたくなかったからですが、
ゲームに関しては本人もはじめから自覚があったようで、
すんなり即決で断ちきりました。
未練もない様子です。
いちばん強調したことは──
>自分で決めたことはキッチリやれよ
ってこと。
いちいち勉強の中味まで把握してチェックできないわけですから、
本人の立てた計画を通して勉強方法を管理していくしかない。
そこが「下剋上受験」の桜井親子と大きくちがうところ。
だからとにかく計画を作らせて、
自分の立てた計画をキチンと実行することの大切さを教える。
>約束したことを守らんかったらめっちゃ叱られるで
ってことは伝えました。
パパとの約束、
そしてそれ以上に自分との約束。
子どもっていうのはやっぱり素直です。
試験の結果が最悪で、
たぶん負けたくない友だちにも負けて、
塾の先生の期待も裏切って、
しょげてるところにオヤジのゲキが飛んできたもんですから、
当然といえば当然でしょうけども、
返事はすべて即答で「イエス」
>うん、わかった。
>やるわ。

──明らかにこの日から、
エンジンかかって顔つきが変わりました。

いじめられっ子を変えたひとつの言葉

もともと線が細いというのか、
きゃしゃな体つきで色白で、
学校でもいじめられる側で、
泣き虫すぎることに親が戸惑うくらいだったミチハルですが、
5年の2学期ごろからなんとなくたくましさが感じられるようになってました。
やっぱり男の子ですから、
年々たくましくなっていってくれると、
これは息子の成長を眺める親の楽しみ。
ちょうど「自然学校」っていう行事のあったころなのでよく覚えているんですが、
息子に教えたひとつの言葉がきっかけとなって、
心の強さがみるみる変わったんです。
反面教師
という言葉です。
ミチハルにいじわるする友だちがクラスに3人ほどいたらしいんですけども、
そういうのはぜんぶ反面教師だと思えばいいんだよと、
たったそれだけのこと。
ポジティブとかネガティブという心の向きの話は、
もっと小さいころからしょっちゅう話して聞かせてましたので、
素直に理解して吸収していましたし、
ネガティブな気持ちをポジティブに振り替えることの意味もわかってました。
そんな中、
反面教師っていう言葉は特に響いたらしいんです。
自分は絶対にそんな人間になってはいけないという、
ダメなほうのお手本を教えてくれている先生なんだから、
恨むどころか感謝してもいいくらいだよと教えたら、
そこにえらく食いついた。
きっとタイミングが絶妙だったんでしょうけども、
これほどテキメンに響いた言葉は他にありません。
それからお風呂で学校の出来事について話すたび、
しょっちゅうこの言葉を使ってましたね。
>あー、
>それも反面教師ってことか。
>反面教師って、
>めっちゃいっぱいおるな。
>反面教師って、
>めっちゃええこと教えてくれるよなー。

──みたいな感じで嬉しそうに、
いろいろたまっていた想いが吐き出せたのか、
性格がみるみるポジティブに変わっていった。
その変化が日毎に確認できるほどのスピード感。
そんな息子ですから、
気のもちようが何より大事なんだってことは、
すでに知っているんです。
心を強くする話は、
受験に関係なく折に触れてしてきてる。
反面教師の存在をテコに、
息子の心は目に見えて反転強化されてきてました。
だからあとは、
>受験もいっしょやで
って、
つけ足すだけだったんです。
やる気スイッチは入ったと思います。
ま、
勝つも負けるもないんで、
どこの中学校に入っても同じこと。
ベストを尽くすことが肝心。
結果はもちろん大事だが、
たとえ不合格だったとしても、
プロセスも同じくらい大事なんだってことを、
いまのうちから伝えておきたい。
努力が自信につながる。
似たようなことを桜井信一さんも書いておられますので、
最後に抜粋してご紹介しておきますね。
 人は努力して大人にならなければいけない。
 この歳になってみてつくづくそう思う。私は地道な努力を避けて生きてきた。小学生の頃から大人になるまで努力した記憶がまるでない。結局、運賃だけが大人という情けない結果になってしまった。妻も同じだろう。それなのに私は、努力した人たちと同じ恩恵を期待する大人になってしまった。妻のように諦めることができなかった。
 決して勉強を頑張らなかったことを悔いているのではない。何も頑張らなかったことを悔いているのだ。プロスポーツ選手は相当な努力をし、今脚光を浴びる場所に立っているのだろう。脚光を浴びていることが羨ましいのではなく、頑張れたことが羨ましい。ずっと何となく心のどこかにあった。頑張ることってもしかすると楽しいことなのではないか、辛いことという先入観は間違っているのではないか、そう思う気持ちが何かに包まれて私にも存在していたのかもしれない。
「努力に見合う恩恵が待ち受けている」
 それに気付くのが遅かった。佳織には努力して大人になって欲しい。一段一段自分の足で階段を上って欲しい。もしそれが疲れるのなら、楽な方法を自分で考える大人になって欲しい。