倒産寸前の会社の再建を請け負った件

いきがかり上、友人の会社の経営再建に手を貸すことになりました。 必ずしも勝算はありませんが、イチビって引き受けたわけでもない。 自分も多少の痛手は負うかもしれませんが、流れ弾に当たったようなもんだと割り切って、全力レスキューします。


きっかけは、
内村社長(仮名)の入院でした。
まだ40代前半でバリバリの働き盛りなのですが、
数年前から慢性の腎臓病で無理がきかなくなり、
ついに今回は急性腎不全ということで、
一時的とはいえ経営実務ができなくなってしまいました。
零細企業は社長がすべてみたいなとこありますから、
社長がダウンすることがイコール、
倒産へのカウントダウンです。
それはちょうどわたしが、
アンパンマンの目線で飛んでみようか

言った矢先の出来事でしたので、
助けるか見殺しかっていうことになると、
そこはやっぱりなんとかしてやらんとなっていう義侠心が優勢に。
しかし──
実績が思わしくないのは知っていました。
ウチの会社が間接業務代行の仕事をさせてもらってたので、
誰よりも先に経理内容を知りうる立場だったんです。
取締役営業部長として販売促進面を仕切っていた奥さんと、
資金繰り面でのトラブルが原因で3年前に離婚。
そこから歯車が狂いはじめます。
いつのまにか債務超過に転落してましたし、
自宅を売った現金も支払いに消えて残りわずか。
残った従業員5名に払う給料もまもなく底を突く見込みで、
1人がすでに辞意を伝えてきています。
お見舞いに行って話を聞いたときの内村社長は、
腎臓以外の臓器にも腫瘍や潰瘍が見つかって、
もはや心身共にボロボロの様子でした。
離婚したときに引き取った息子は5歳。
北海道の離島出身のため近くに身より頼りがありませんから、
入院だからといって息子を預けるところもありません。
退院しても生活費もない。
助けてやるぞと、
口で言うのは簡単なんでしょうけども、
電気代も水道代も払えないなんて、
わたしはそこまで追い詰められた悲惨な現実に直面したことがない。
よその会社の経営の心配ができるくらい、
自分のところに余裕があるのか。
クソ真剣に考えないと。
しかし目の前の内村社長はわたしを慕ってくれて頼り切っている。
わたしが事業を引き継ぐのがいちばん安心で嬉しいと言ってる。
自分の顔をちぎって食べさせて‥‥っていう、
アンパンマンの話が頭に去来します。
お見舞いに行ったのが4月27日のことですから、
アンパンマンの投稿から2週間もたってないのです。
あんなこと書かなきゃよかった‥‥のか?
いや、
ちがうな。
自分もこんなふうに、
助けられる相手がいたら助けるぞ

決めたからこんな現実が来た。
きっとそういう順序。
自分の発したメッセージが、
ダイレクトに自分に返ってきた例は過去にもあったけど、
こんな速球が飛んできたのは初めてかも。
想ったことが現実化するスピードは、
だんだん速くなるんだっていう話をたびたび耳にします。
やっぱりほんとうだったか。
とにかく「やれ!」ってことらしいんで、
超特急で救済スキームを考えました。
内村社長がわたしに提示した条件は──
  • 2つのショップはいまの場所で営業を継続してほしい
  • 店舗名は変えずにブランドを守ってほしい
  • 客単価は下げずに高級路線を維持してほしい
  • 会社はどうなってもいい
  • ついてくる社員の雇用は継続してほしい
  • 自分と息子の生活費として月30万円を確保してほしい(それ以上は望まない)

あの‥‥この逼迫した状況で、
公的資金が投入されるわけじゃあるまいし、
それってけっこうあつかましいんじゃないのって気がするんですけど。
>調子に乗んなボケ!
って、
喉まで出かかったセリフをグッと飲みこんで、
クールな目でこれらの要求を眺めてみると、
内村社長が、
過去の成功体験に縛られて変わることを恐れたがゆえに、
環境適応のタイミングを逸したのではと推察できます。
これっていわゆる、
ゆでがえる現象
じゃないの?
「ゆでガエル現象」とは、変革によるスピーディな環境適応の重要性を指摘するために用いられるビジネス警句のひとつ。水を入れた鍋にカエルを入れ、鍋をゆっくりと温めていくと、居心地の良くなったカエルは、のんびり湯に浸かったまま。いつのまにか湯が沸騰するころにはゆであがって死んでしまう。一方、はじめから高温の湯に放りこまれたカエルは、驚いてバタバタと暴れ、必死で飛び出そうとするので命は助かるというもの。企業でも個人でも、自身の置かれた環境の変化を素早くキャッチするセンサーが重要であり、また、変化に対してすばやく行動を起こす勇気が必要だと教えられる。

(ё_ё)
わたしひとりではとてもコワくて再建に自信はもてなかったけど、
もう1社、
ミズイ工業の水井社長(仮名)が手を貸してくれることになりました。
みんな非力な零細。
2億や3億のカネ、
持て余してる人も世の中にはごろごろいるんでしょうけども、
なかなかそんな人が目の前に都合よくあらわれてくれたりはしないもんなんでしょう。
ニュースで見る経営再建は、
何百億、何千億の規模ですけども、
いま目の前にある経営再建は数百万円単位。
1千万もあれば楽勝で立て直せるのにネって話。
助けるほうも助けられるほうも零細で私生活直結。
でも、
2社で1社を救う絵面ならなんとかやれるかも。
それからもうひとつ忘れてはいけないのが、
体育会系でフットワークの軽い税理士法人の存在。
弁護士でも社会保険労務士でも、
型にはまったステレオタイプの先生方は、
いざというときにも公務員みたいに
決まりきったことしかしてくれませんね。
サムライ業というわりにはぜんぜん侍じゃない。
その点わたしは、
野武士のような気骨あふれる税理士に恵まれてラッキー。
債権者との交渉をわたしがやってたら、
場外乱闘で血の雨が降りやまないでしょうけども、
ぜーんぶ引き受けて丸くおさめてくれてます。
けっして、
うまいことやって儲けよう
なんて、
甘い見通しの立てられる状況ではありません。
気合いだけでキャッシュが降ってくるもんなら、
なんぼでも祈りますがな。
一歩まちがうと、
こっちも大やけどする恐れがあります。
それにこれは、
めったやたらと途中で投げ出せない。
片足を突っこむという言い方がありますが、
そんなハンパな感じではない。
ドラマでよくある事業再生ストーリーは‥‥
赤字まみれの会社を破産させて借金を踏み倒し、
事業だけ別会社に譲渡して‥‥ってやつ。
しかし現状では、
事業譲渡を受けて継続したところで商品が売れてないんだから即赤字。
内村社長には自己破産の手続きを進めるお金すらない。
とはいえ、
いますぐ何か手を打たなければ、
人件費や家賃をはじめとする固定費が出て行く一方で、
座してむざむざ死を待つだけになってしまう。
仕入先、外注先から届いた払えるアテのない請求書が山のようにあり、
いよいよ今週末に払う給料も大幅に足りないことも判明。
それでも事業を継続するとしたら、
やっぱりどっかで別会社が必要よね?
だとしたら、
ぜんぜんストーリーはできてないけど、
もしかしたらいらんかもしれんけど、
受け皿となる新法人の設立は、
5月10日
に!
わたしはゲンをかつぐタイプですから。
日付にはこだわります。
5月10日なら長女の誕生日なので、
もうこれ以上にゲンのいい日はありません。
思い立ったのがゴールデンウイーク中でしたので、
子会社設立の手続きはわずか3営業日で片づけました。
新法人の代表取締役をお願いした水井さんと、
連休中も休みなく、
夜遅くまでスカイプで打ち合わせして、
LINEでメッセージ交換して‥‥
とにかく内村社長の息子の信太郎くん(仮名)に、
もうこれ以上つらい思いをさせないことを最優先にしようと申し合わせました。
内村社長は退院できるような容体ではないのですが、
信太郎くんの世話がありますので、
ドクターから外出許可を得て自宅に戻り、
最低限の育児をこなしつつ安静にしつつ、
仕入先や銀行にかたっぱしから電話して、
支払いを待ってもらえるようにひたすら頭を下げてます。
いま、
わたしに何ができるか。

──思考はそこに集中していますが、
さすがにこの短期間では何も妙案は浮かびません。
当面の運転資金を立て替えることくらいしか‥‥。
どうなるんでしょうか、
この経営再建は。
勝算はありませんが、
決してイチビって引き受けたわけでもない。
多少の痛手を負うことになったとしても、
そこは流れ弾に当たったようなもんだと割り切って全力レスキューしましょう。
リスタートの日、
外は雨が降ってます。
ツイッターはじめました。
(経営再建とはなんの関係もないですが。)
わたしは守られた存在。
ぜったいにだいじょうぶ。
うまくいく。