コンセプトメイキングで奇跡が起きた

意味的価値を高めるのに元手は不要。 コンセプトはバリューを転換し、ブレイクスルーを起こします。 短期で経営を急回復させる秘策の宝庫です。 が、コンセプトメイキングの盲信は危険。 ブランドが持続的に支持されるには、土台となるブレない理念が必須です。


「S+T」(エスとティー)っていう名前の、
坂の上のバーの話をしましょう。
コンセプト

ついての説明

これからしたいのですが、
へたくそかもしれませんので、
まず、
わかりやすそうな事例を挙げてみますね。
つい2、3年まえまでは、
ちっともはやってなかったバーが、
いまはとっても繁盛してますよって話です。
「S+T」っていうバー、
なんせ坂の上にあるもんだから、
ちょっと一杯やりたいときに、
街灯もない細い山道を5分ほど歩いて登らないといけない。
駅からだと20分近くかかる。
開業時にマスターがそこを選んだのは、
とにかく家賃が安かったから。
安直すぎる動機ですけど、
現実にはよくあること。
静かな林の中にある山小屋風のバーで、
雰囲気はすごくいいんだけれど、
最初は友だちにずいぶん責められた。
>飲食店は立地が8割!
>そこはケチったらあかん。
>そんな不便なとこ誰も来んやろ。
>オレらもしんどいしな。
>特に女のコが来てくれへん。
>足もと真っ暗やし。
>女のコに人気のない店は絶対はやらへんねん。
>やめとけ!

‥‥ボロクソだったんですなぁ ┐(-。-;)┌
でも、
他では味わえないレアなワインやバーボンを豊富に取り揃えておけば、
ヘビーなファンがきっとリピータになってくれるはず‥‥

マスターは考えた。
家賃が安いことに加え、
ちょうど木陰で日の当たらない倉庫が裏にあるので、
酒の置き場には困らない。
それが強みになると考えた。
でも実際には、
やっぱりお客さんは集まらず。
来る日もくるひも閑古鳥。
あっというまに開業資金が底を尽き、
1年ちょっとで廃業の危機を迎えます。
追い詰められたマスターが
コンセプトメイキング
というような言葉を知っていたかどうか

定かではありませんが、
とにかくそこで閃いた。
疲れた大人の逃避行シェルター
っていうコンセプトが
閃いた。
>そうや!
>ここは逃げ場なんや!
>逃げるときは誰だって遠くへ逃げるやないか。
>人目につかないところへ逃げるやないか。
>ここは職場からも家からも遠い。
>だから、
>逃げ場っていうことにしたらええんや!

──そう閃いた。
>疲れた大人なら、
>よけい坂なんか登らんぞ。

と、
ふつうの感覚ならそう突っこむところだが、
当時はマスター自身の脳もよっぽど疲れてて、
自分が逃げ出したいくらいだったから、
坂でも梯子でも風呂屋の煙突でも登ったんでしょう。
閃き(ひらめき)ってすばらしい。
そしてそれから数ヶ月。
あにはからんや、
疲れた大人たちがちょっとずつ集まりはじめた。
実際には「疲れた大人」というよりも、
才能が豊で売れる一歩手前のクリエイターっぽい層だった。
閃き(ひらめき)ってすばらしい。
たったこのひとつのヒラメキで、
青息吐息だったマスターの創作エンジンが蘇った。
新しいコンセプトにしたがって、
お店の内装を少しずつ変えていった。
本人いわく、
退廃的で混沌とした脱出口のイメージを演出するために、
刷毛にふくませたペンキを壁や床にぶちまけた。
奥にいくつかあるテーブル席は、
黒い金網と段ボールで作ったオブジェで仕切って、
独房のようにカウンター席から隔離した。
メニューも変わった。
ワインやチーズの種類が減ったかわりに、
焼酎と乾き物が増えた。
グラスのサイズもでっかくなった。
宣伝広告費は下がった。
‥‥というか、
もともとそんなにかけてなかったが、
いまは1円も出してない。
なんどか雑誌に取り上げられるうちに、
意外なことに女性ファンが増えてゆき、
その中のひとりがスタッフとしてお店で働くことになった。
商売繁盛めでたしめでたし。
(≡^∇^≡)
──さてこの事例、
お店のコンセプト

あとづけ
だったってことに注目していただきたい。
こじつけ
といってもいい。
開業当時は、
コンセプトと呼べるようなものはなかったのに、
追いつめられたおかげで知恵が出た。
スペック──ここではお酒の種類とかおしゃれな雰囲気──
は、
むしろ下がっていることにも注目してほしい。
機能的価値

変わってない(むしろダウン)が、
意味的価値

上がることによって売上が伸びましたよっていう、
そんな事例であることに注目していただきたい。
モノは同じなのにコトが変わると売れ方が変わるっていうか、
そんな奇跡みたいなことが起きる裏側には、
ほとんどといっていいほど
コンセプトメイキング

かかわっているんですよっていう話
なんです。
酒を飲むっていう行為自体は何も変わらない
のに、
「あなたはなぜここに来て酒を飲まなければならないか?」

説明されると、
酒の味が変わる‥‥かどうかわかりませんが、
そこに足が向くことに納得性が生まれる。
>なんかこの店さぁ、
>地味っていうか暗いっていうかさぁ、
>オシャレっぽくないんじゃない?

なんてクレームは誰も言わない。
さあ!
じゃあいったいぜんたい
コンセプト
ってなんなんだ?
‥‥っていうことになるんですけど、
ことばの意味とか定義につきましては、
実にいろんな方が、
いろんな解釈をされております。
ひらめき一発で、
既存のサービスが大化けして、
爆発的なヒットにつながって、
マジで何億円かの利益が生まれるかもしれない‥‥
ということで、
コンセプトメイキング専門
みたいなコンサルタントもたくさんおられます。
ですので詳しくは、
そういう方の解説を参考にしていただくとして‥‥
できれば!
コンセプトってものを常に意識しておいてほしい。
何をするにも
はじめにコンセプトありき!
っていうくらい、
コンセプトメイクを習慣にしておいていただきたい。
大きな企業の商品開発では、
そんなのあったりまえですよって感じでコンセプトが先に立つ。
コンセプトが明確じゃなければ社内の稟議も通らない。
書類に目を通してもらうことすらできないかもしれない。
寝ても覚めてもコンセプト、
コンセプト、コンセプト、コンセプト‥‥
そのくらい大騒ぎなもんなんです。
が、しかし、
ここは中小企業の国なので、
ちょっと事情がちがいます。
コンセプトメイクもいいんですけどね、
ただ作ればいいってもんじゃない。
コンセプトにブレがないこと。
一貫してブレないコンセプトメイキング
こそが大切なんです。
だからやっぱり組織のよりどころ
経営理念から先に固めてほしいわけなんですよね。
そもそもなんのために経営しているのか──
っていう想いがきちんと整理されて、
そこからコンセプトにつなげる。
でないと一発屋で終わってしまうことになりかねません。
短期決戦でドカーンと売上をアップさせた実績のあるコンサルタントは、
ほぼ例外なくコンセプトメイキングで勝負してます。
起死回生の一発逆転が狙えるのも確か。
マーケットのニーズを読むセンスがあれば、
前後の脈絡なく単発で自在に打てるのがコンセプトメイクの便利なとこ。
アウトソースしたり社員に丸投げすることもできます。
だから逆にコワい。
ムードだけで中毒になります。
コンセプト型の成功は目立ちますからね。
往々にして、
コンセプトで稼いでいる人たちから見れば、
経営理念なんてもん、
まどろっこしいらしい。
経営指針書づくりをきっちりやって、
その過程で自社の強み(USP)が明確になって、、
重要課題のひとつとしてコンセプトメイキングが出てきましたよ
っていう順序のはずなんですけど、
それがどうもまどろっこしいらしい。
マーケット本位じゃないとかなんとか。
脳のタイプがちがうんです。
コンセプトにふりまわされないためには、
そこのところの差異を、
よく把握しておかれるとよいでしょう。
ちなみに、
さっきのバーの事例なんですけど、
店名の「S+T」っていうのは、
ほんとうは、
マスターの息子と娘のイニシャルです。
智史(さとし)くんと智子(ともこ)ちゃん。
ところがいまでは、
ショップカードやマスターの名刺に
疲れた大人の逃避行シェルター
Sick and Tired

なんて書いてあるんで、
常連さんはみんな、
これの略だと思ってる。
でも、
コンセプトが当たったおかげでマスターはすっかり元気回復、
元気すぎるほど絶好調で、
ぜんぜんsickでもtiredでもありません。
そこが運命のおもしろいとこ。
こんなこともあるんですからねぇ、
いいんですよ。
コンセプトは、
こじつけあとづけ
でもいい。
ビギナーズラックっていうのもあるし、
まぐれあたりもあるんですから、
コンセプトづくりはやらないよりやったほうが絶対にいい。
アウトソーシングでもいいし、
部下に任せてもいい。
>バリューの創造って、
>こういうことだったのかしら?

って、
何かひとつでも気づけたらいい。
コンセプトメイキングことはじめ

「いま、ここ」から。