それでも仕事を辞める女たち

仕事を通して社会のお役に立つ、社会から求められる── その実感なしに、しあわせでいることはむずかしいものです。 自分がしあわせなら、世の中もしあわせにしたいと願わずにはいられないのが自然でしょう。 自分が働くことで家庭も会社もしあわせに。両立をあきらめない生き方です。


事業所内保育園・院内保育所の運営で業績を伸ばす
株式会社ゼブラキッズ(仮称)。
経営するのはわたしと同い年(50歳)の富永摂津子さん(仮名)。
約30人の社員さんがおり、その8割以上が女性。
創業してから20年、
いちども赤字を出していない。
歯に衣着せぬ物言いと、
こうと決めたらまっしぐらな行動力。
すごく尊敬している経営者のひとりだ。
女性がはたらきやすい職場という課題に率先して取り組まれている経営者で、
ワークライフバランスについての考察も鋭い。
そんなゼブラキッズ社は、
これまで通算で100人くらいの女性を正社員として採用してきたとか。
ところが、
社員が在職中に結婚して子どもができて、
産休を取得した前例がただの一度もないのだという。
>若いコはみんな結婚して辞めちゃうのよ。
>っていうか、
>結婚するまえに辞めちゃうパターンが多いわね。
>もったいないわよね。

‥‥と語るその口調は、
特に残念そうな様子でもない。
もう慣れっこなのか。
子どもを産んだ女性が、
あたりまえのように働き続けられる社会。

その実現に向かって働く女性をサポートするのが富永社長の使命のはずだ。
ところが自社の職場がまだ、
女性が安心して子どもを産める環境になっていない‥‥とは?
この現実に忸怩たる思いがないのだろうか?
子どもを産む女性社員が、
あたりまえのように産休育休を取得して、
祝福されながら職場復帰できる会社‥‥
>そりゃ理想はそうよ。
>誰だってそれができたらすばらしいって言うわよね。
>でもね、
「言うは易く行うは‥‥」よ。

>会社としてはとりあえず、
>まあまあ仕事のできる女性には辞めてほしくないわよね。
>でも正直なところ、
いちど抜けた人には戻ってきてほしくないっていう気持ちもあるのよ。
>わかるでしょ?

あ、はい。
わかりますとも。
人のやりくりの問題もさることながら、
なにかこう、
途中で放り出されたような寂しさが、
わだかまりとなって残るケース‥‥
>いい話があるならかまわないわよ。
>さっさと辞めちゃっていいわよ。
>子どもがほしくないなら別だけど、
>ほしいんだったら出産をいちばん優先に考えたらいいのよ。
>気合いさえあれば産めるってもんじゃないんだからね、
>なにもかもかなぐり捨てて突き進んだらいいのよ。
>女にはタイムリミットがあるんだからね。

はい、はい、
たいへんよくわかりますです。
おっしゃるとおり。
結婚は、
出産の序幕としてすごく重い意味を持ちます。
だから男と女ではスイッチがちがう。
男は外に出てエサを獲ってくる役割、
女は子どもを産み、
その子を安全な巣の中で育てる役割。
乳をやり、
くるむように暖め、
あやして寝かしつける。
それが女の遺伝子に組み込まれた指令。
はたらきながら‥‥
っていうんじゃ気が散るんですよね、
それもわかります。
だって、
ストレスは胎児の健康にモロに影響しますものね。
だから、
仕事のことはスパッと忘れて家庭のことに集中する。
自然な流れに従うとそうなる。
子どもができたとわかったその瞬間から、
からだもあたまもこころも全面的に出産モードになる。
プツッ‥‥
>男はそこでほったらかしにされちゃうのよねぇ~。
>いくつになっても男は子どもなのにね。
>ヒゲが生えてもアタマが禿げてもオチンチンがおっきくなっても中身は子ども。
>それなのに別の子どもにオッパイを奪われちゃうわけよ。
>かわいそうよね、男たちは。

(-“”-;)
だから女には責任のある仕事は任せられないんだ!
‥‥っていう男の恨み節が始まるんでしょうか。
プライド高き男たちの阿鼻叫喚が何百年ものあいだ積もってきたんでしょうか。
だとしたら、
ビジネスの現場における女性蔑視の風潮は、
そう簡単になくなりませんよね。
>そのとおりよ。
「せっかくオレがここまで育ててやったのに」なんてね、
>冗談じゃないわよ。
>育ててやったつもりで悔しがってる自分だって、
>ちょっとまえまで母ちゃんのオッパイで育ててもらってたくせにね。

──女性差別には、
そんなふうに捨てられた男の怨念がこもってたんですかねぇ‥‥。
いちど仕事を辞めた女たちの社会復帰が、
並大抵ではない理由がわかる気がします。
元の職場に戻るには、
ことさらに大きな抵抗があるわけです。
>わたしはやってきたわよ。
富永社長自身はご主人とは別居中の身ながら、
一児の母。
35歳のとき、
会社設立5年めで女の子が産まれている。
>何回か流産してるしね、
>もうあきらめてたときにポコッとできちゃったもんだから、
>逆にあわてたわヨ。
>ちょっと危ない状態でね、
>最初の子のときは出産前にもちょっと入院して、
>けっきょく3週間も休んじゃったのよ。
>でも本業が保育園だから助かった面はあるわよね。
>赤ちゃん背負ってヨダレだらけになりながら、
>おカネ借りに銀行まわったこともあるわよ。

──こんな人、少ないです。
よほどの使命感が植えつけられた人にしかできません。
途中で責任を放棄するかもしれない可能性
について考慮するタイプの賢明な女性は、
はじめから男たちの上になど立とうとはしないもの。
かくして、
あらゆる組織の重要なポストは男たちによって独占されました。
ま、ふつうは、
出産の可能性が目の前に開けるというと、
そっちに吸い寄せられるように他のことから身を引く女性のほうが多いでしょう。
「女は使えねえ!」って男は言うでしょ。
>しかたないわね。
>わたしは何も途中で投げ出さなかったつもりだけど、
>過去にはいろいろ投げ出してきた女たちがいるからね、
「女はダメ」ってひとくくりにされちゃうわけよ。
>最初のうちはわたしもだいぶ苦労したけどね、
>子どもが高校生になったらもう男も女も関係ないわね。

サバサバした感じではあるけれど、
言葉の端々に長年の喜怒哀楽がにじみ出る‥‥。
こういう人、好きです。
(≡^∇^≡)
いま、
時代のムードは変わりつつあります。
女性の方たちに子どもを産んでいただかないと、
国がまわらなくなってきたんです。
産んで育てていただきながら、
しかも外で働いて稼いでいただかないと、
家計もまわらない。
女たちの事情も変わりつつあります。
昭和の女たちは、
4人も5人も子どもを産んだから、
そのうえに外へ出て働けとまでは言われませんでしたが、
けれど1人、2人の出産なら、
じゅうぶん時間があります。
家に閉じこめられるほうがかえってしんどい。
家庭とは別の生きがいが、
外に必要です。
だから仕事は辞めないほうがいい。
でも、
辞めちゃったんならしょうがない。
パートでも‥‥なんて言わず、
スマートな社長になってください。
起業したからといって、
男と張りあう必要なんてまったくありません。
>ばかねぇ、
>男なんてねチョロいもんよ。
>子どもなんだから。
>そこのところさえ押さえてたらだいじょうぶなのよ。
「あなたは強いわ頼りになるわ素敵だわ」って言い続けること。
>アカンベェしながらでもしっかり立ててあげればいいの。
>女の敵は女なのよ。
>反対に言うと、
>女に味方してもらえる女がいちばんってこと。
>結婚しない女が負け犬なんてとんでもないわね。
ほんとうの負け犬は「女だからダメ」って考える女よ。