若ゾウ対談──コンサルタントになりたい

コンサルタントという職業にあこがれる人は多い。 設備もいらず、在庫も持たず、 スキルさえあれば自由自在に稼ぐことができるというイメージがあるからでしょう。 実際その通りです。 自分の強みを理解し、それを的確に社会に役立てることができるなら、 コンサルタントはとても素敵な職業です。


経営コンサルタントになりたいんだって?

はい。
先生のような先生になりたいんです。

わたしのようになりたいという意味か。

そうです。

それは嬉しいことを言ってくれるが、
わたしのどういうところがいいと思ってくれているのかな。

経営のコンサルティングを通して、
もっと広く人生全般、
生き方そのものを教えたいんです。

あのな‥‥
わたしはそんな大それたことはしてないぞ。

いえ、いいんです。
ボクはそんな感じで。

それなら稲和塾に入れてもらったらどうだ。
稲森和夫さんの著書に「生き方」っていうのがあるくらいだぞ。

いえ、
そんな既成の枠はいやです。
たとえわずか数人からであっても
「師」と仰がれる存在になりたいんです。

うん‥(;-_-;)?
別に仰がれたくて仕事をしているわけではないが、
じゃあまぁ、
適当にわたしのマネでもしたらいいだろ。

はい。
でも、
それがどうも‥‥よくないのです。

なにか問題でもあるのか。

はい。
ボクのような若輩者が生き方を説くなど、
いささかおこがましいのではないかと。

おおっ、
よくわかっているではないか。
そりゃあまぁその歳じゃあな、
いったい何様のつもりだってことになるだろうな。

まったくそのとおりで自信がないのです。

じゃあやめとけよ。

あ、
いやいや、
あれこれいろいろ考えあぐねた末の道なのです。

‥‥なのだな。
では、
つべこべ迷わず精進したらよかろう。

いや、
それがその‥‥

なんだ。
ややこしそうなやつだな。
どこに迷いがあるというんだ。

いや、ですから、
ボクのような者に指導者の立場が務まるのかどうか‥‥

知らんがな。
それは本人の志(こころざし)しだいだろう。

志は‥‥
定まっております。

じゃあなんだ。

ですからその、
自信が‥‥

なにをそんなに怖じ気づいているんだ。
はじめは誰だってそんなもんだろ。

ボク自身がまだあやふやなことについて、
それを他人様に教えるなどと‥‥

ではもうちょっと自信のある、
キミの専門分野のことを教えたらいいではないか。
セールスには自信があるんだろ。

あ、いや、
それでは‥‥自分が燃えないんです。

なんだと?

ボクが絶対的に自信のある分野のことを語ったところで、
まったく自分自身が楽しめないんです。

二律背反のようだな。

先の読める未来に憧れは生まれません。

おっ、おっと‥‥
若ゾウだと思って軽く見ていたら、
えらく高尚なことを言ったな。

本人にとっては切実な問題です。

生き方を教えるコンサルタントなら燃えるというのか。

はい。
それならばじゅうぶんやりがいのある仕事だと感じます。

他人の人生を左右する立場だからな。

たいへんなことです。

いまのキミの影響力と比べると、
ずいぶんかけ離れているよな。

あ、‥‥はい、
その‥‥
かけ離れていることこそが問題です。

なるほど。
自分が突拍子もないことを考えているように思えるのだな。

はい、
おっしゃるとおりで。
うまくいきそうな気がしないのです。

大志とはそんなもんだろうな。

ただのないものねだりなんでしょうか。

それはキミの本気度によるというのだ。

本気度はだんだん高まってきてます。

そもそもなぜ、
指導者なんぞになりたいと思ったのだ。

はい‥‥ボクは、
ちょうど10年、
宝石と貴金属のセールスをやってきて、
そこそこの成績だったんですけど、
ボク自身の魅力で売れたと感じるときはすごく嬉しかったんですよね。

よかったじゃないか。

いや、
よくないです。

なんだ?
どういうことだ。

ウチを選ぶという意思決定をしてもらうために、
いちいち体を使いたくない‥‥というか、
自分のことをイチから説明して好きになってもらう努力をしたくないんです。
はじめから先生になっとけば、
商品の中味に関係なく、
絶対の信頼関係で何でも買ってもらえると思うんです。

なんだ?
けっきょく営業が目的なのか。

自分の影響力を高めたいっていう動機では不純ですかね、
やっぱり。

ああ、まあな。
だが
きっかけは不純でもかまわんさ。

ですよね。

ただし不純でもいいのははじめだけだぞ。

はい、ボクは、
経営コンサルタントとして、
悩める経営者を励まし、
知恵を貸し、勇気と希望を与え、
活路を見いだすお手伝いがしたいと思ってます。

青臭くて聞いてられないが、
まあいい。
本気なんだな。

はい。
自分がワクワクできる道はそこにしかないという結論にいたりました。

そこはすごい自信なんだな。

はい。
意気込みだけは十分です。

あとはセルフイメージと理想のギャップか。

はい。
いまはボク、
尊敬されてませんから。

なぜ尊敬されてないと思うのかな。

え?
なぜもなにも、
経営については素人ですし、
そんなの変ですから。

なんだ?
「変」とは?

ボクが他人にものを教えるなんて聞くと、
きっとみんなが笑うと思います。

どんなふうにだ?

「おまえが何を知ってるんだ」とか
「でたらめ教えるな」とか、
非難が渦巻くでしょうね。

キミはでたらめな生き方を教えるつもりか。

いえ、とんでもありません。
曲がりなりにも10年近くトップセールスマンだったんですから。

だが、
いまは尊敬されていないというんだな。

慕われている実感はありませんね。

10年間トップだったんだろ。
それってとんでもなくすごいことじゃないか。
年収だってかなりのもんだろ。

少ないときでも3000万は超えてました。
けど、
ナンバーワンを張り続けるためには
自分のカネを再投資しないとだめなんですよ。
ホストクラブのホストといっしょなんです。
お客さんにプレゼントしたり温泉旅行にお伴したり、
冠婚葬祭はもちろんお子さんの入学や卒業、
離婚訴訟にまで巻きこまれて‥‥
手元にいくらも残りませんよ。

とか言いながら
派手なクルマに乗ってるじゃないか。
アルファロメオってやつ。

フェラーリです。

‥‥

そんなんで人は人を尊敬しないんですよ。

ま、そうだな。
むしろチャラチャラしてるようで、
軽く見られるくらいだ。

先生もジャガーですが‥‥

あのな、
まっかっかのフェラーリといっしょにするな。
同じ外車でもわたしのはおとなしくて上品だ。

すいません。
クルマもこれにしろって先輩に言われたんですよ。
2年くらいで買い替えちゃいますから愛着もないです。
要するにハッタリなんですよね。
実はずっとピリピリしながら突っ走ってる。
人前ではすごく勢いあって元気で明るく振る舞うんですけど、
神経使いすぎて内面はボロボロでした。

そうなのか。
なんだか悲しそうだな。

いや‥‥
まぁ大げさかもしれませんが。

そこそこしあわせな、
いい暮らしをしているみたいではないか。

だからといって、
経営者の皆さんに上から教えられる身分とは
ほど遠いものがあると感じています。

上から教えるつもりなのだな。

そりゃまぁ仮にも先生ですから‥‥、
相手よりは何でもよく知ってないと。

偉そうな先生になりたいのか。

いえ、
決してそんなつもりではないですが、
先生を見ているといつもバシッと物を言われますので。

わたしが‥‥か。
おまえの言い方はどうも皮肉っぽいが、
そんなのは単にプライドが高いだけじゃないのか。

プライド‥‥でしょうか。

他人にどう見られるかばかりを気にしていること自体、
プライドの高い証拠だわな。

でも実際、
ボクは人の上に立つ人間になりたいのです。

上とか下があるんだな。

ないんですか?

うん‥‥
じゃあまあ百歩譲って上や下があったとして、
「上に立つ」というのと
「上から見下ろす」のとは意味がちがうだろう。

なんだか頭が混乱してきました。

他人を上から見下ろすようなヤツが人の上に立てるものか。
もう少しリーダーシップについて学んだらどうだ。

言われてみれば、
たしかに‥‥そうですよね。

共に学び、共に育つという姿勢でやってみるのがよかろうな。
謙虚にな。

え?
謙虚‥‥ですか。

なんだ。
驚いたか。
わたしの口からそんな言葉を聞くとは思わなかったって顔だな。
こう見えてもな、
常々謙虚であろうと心がけているんだがな。

あっ、いえ、
すいません。
はい。理解できているつもりです。

じゃあ謙虚になれるか。

はい。
もちろんです。

謙虚に、
他人様のお役に立ちたい心持ちだけに意識を集中していたら、
つまらん奴のつまらん批判など、
まったく耳に入らなくなるさ。

いまはずいぶん耳に入ってますが。

そうだろう。
なにも始めないうちからそんなものが聞こえるとはな、
けっきょくは己の邪念に他ならないってことだ。

ボクの邪念ですか。

そうともさ。
キミ自身の心の中に、
他人を批判して貶めようとする汚い観念がどっさり積もっているだろう。

はぁ‥‥、まぁ、
ずっと競争してきましたからね、
それはあるかもしれません。

それが鏡に映って自分にハネ返ってきているんだ。
批判されていると感じるのは、
他人を批判しているってことの裏返しなんだ。
キミの心が汚く濁っているってことさ。

キツいお言葉ですね。

そのかわり、
それをきれいにしてみろよ。
自信が出てくるぞ。

そうでしょうか。

そりゃそうだろ。
もうどこからも誰の批判も聞こえなくなるんだからな。

自分の濁りを取って心が他人を批判しなくなったら、
他人もわたしを批判しなくなるってことなんですね?
だったら‥‥
なんだかがんばれそうです。

ああ、
ひたむきにやれよ。

経営者の皆さんに、
すごく喜んでもらえそうな気がしてきました。

ああ、
その調子ならきっとうまくいくよ。

あ、
ありがとうございます。
じゃあさっそく‥‥

こらこら、
まだいくつも落とし穴があることを忘れるなよ。

えっ?

あたりまえだろうが。

あ、
それはそういうもんなんスね。