経営指針書の効能

家族経営には家族経営独特のややこしさがあります。 特にコミュニケーションがおろそかになりがち。 わかりきっているだけに「めんどくさい」が先に立つ。 だからこそ経営指針です。 「言わなくてもわかってるはず」がいちばん怖い。経営指針書で交通整理しましょう。

親子の確執とか、兄弟で骨肉の争いとか、
親戚縁者のしがらみとか、
なんか暑苦しいですよね。
もめてる当人たちはいいとして、
それに巻きこまれた社員さんたちが気の毒です。
社長派だの専務派だの、
かかわってる業者もたいへんです。
田舎の名家にありがちなんですけど、
毎日いがみあいっているくらいなら、
とっとと出ていきゃいいのにって思いますね。
たとえ何億、何十億円を放棄してもですよ、
心にわずらわしいことがないほうがいい。
ああ、もっとも‥‥
中小零細の場合はお金がなさすぎて出て行けない
っていうケースが一般的でしょうか。
 自分が出ていく = 廃業で破産
で、
親の面倒をどっちがみるだのなんだの、
義務と我慢の押しつけあい‥‥。
ε=( ̄。 ̄;)
板金塗装屋さんのサクラ商事(仮称)の社長は
桜田さん(仮名)。
39歳。
専務は桜田さんのお兄さん(42)。
お父さん(69)が会長で
経理担当がお母さん(64)。
あと、
現場作業員の叔父さん(お父さんの弟)と、
その息子(つまりいとこ)を入れて社員はぜんぶで6人。
典型的な家族経営ってやつ。
親は古くて口達者、
いろいろめんどくさそうです…(;-_-;)
しかし業績は順調で週末もなかなか休めないほど多忙、
そろそろ人員を補充しないとなぁ~っていう状況。
社長は数年前まで、
会社の経営方針をめぐって、
お兄さんとケンカが絶えなかったと言います。
会議を開けばとにかく口論。
たとえば人事のことにしても、
母親には引退してもらって新しい社員を雇用したい社長に対して
専務は、
いとこの嫁にさせたらいいと言い張ります。
現場にも社員を増やしたい社長に対して
専務は、
アルバイトでいいと言い張る‥‥といった具合。
どっちがいいとか悪いとかではなく、
いちいち自分と対立する専務に社長は辟易。
なにかとボヤいてばかりの日々が続いていたそうな。
そんな折、
得意先の梅田社長(仮名)に勧められたことがきっかけで、
中小企業家同友会に入会、
経営指針書をつくろうと思い立ちます。
>つくっただけでは会社は変わらないよ。
という台詞は
はじめから何度も聞かされていました。
つくるからには実践すること。
経営指針書を土台にしてPDCAのサイクルをまわすこと。
月例のPDCA会議を設けたいという提案にも専務は反発しましたが、
梅田社長から説き伏せられてしぶしぶ協力してくれることに。
まじめな桜田社長が、
経営指針書を中心に会社をまわすようになって3年。
専務といがみあって週に10回以上ケンカばかりしていたのが、
経営指針書をつくってから口論が週1回に減ったのだとか。
こういう話、
よく聞くんです” “(/*^^*)/
経営指針書が会社経営に浸透してくると
目に見えてモメごとが減ると。
だって経営指針書に明記してあるんですからね。
こういうミスが起こったときは、
まず誰に連絡を入れる、
お客さまには何て説明する、
責任は誰にある、
その理由はなぜ、
自分はこのことは必ず守る、
そのかわりおまえはこれを‥‥

みたいなことがいちいち決めてある。
もし書いてなければ?
書き足す。
指針書をまとめるプロセスで、
役員や社員の意見をしっかり汲みあげて、
年に一度、
納得して成文化された以上はそれは尊重されるんです。
ひとりひとりの宣誓書ですから。
対立や口論の多い会社はむしろ、
経営指針を短期間で浸透させるには向いているかも
しれません。
自分の言いたいことが言えて議論に勝てるチャンスが増える
と、
お互いが思えたらいいので。
サクラ商事さんの場合は、
経営指針書が六法全書のような役割を果たしました。
新聞を読む順番と制限時間、工具の並べ方、
テレビのチャンネルを決める権利、トイレ掃除の担当、
無料で飲んでいい缶ジュースの1か月あたりの本数‥‥、
細かすぎるくらい細かいことがつらつらと大まじめに書かれたルールブックです。
誰がどんなケースでどう言ったか、
議事録、発言の記録集になっていたことも、
いがみあいを減らすことに抜群の効果がありました。
正論が通るように決着しないとしかたがないような風潮に、
だんだん変わってきた。
だからみなさんも、
六法全書のような経営指針書をつくりましょう
‥‥ってわけではありません。
会社によっては、
経営指針書が憲法のような格式の高い存在であったりもしますけど、
そういうのは会社の成熟度によって変化していいと思います。
A4サイズで20~30ページっていうのが、
まあいちばん典型的なスタイルかなと思いますが、
B5で10ページ、
絶対に守れることだけに絞ったコンパクトな経営指針書もあります。
ポケットにも入る手帳サイズで革表紙、
常時携帯を従業員に義務づけている会社もある。
とにかく日常的に、
>こういう場合はどうすることになってるんだ?
>経営指針書を持ってこい。

と、
しょっちゅう言いあってるのはすばらしいこと。
はじめは耳を貸すこともなかった会長も、
兄弟で話し合って決めた新しい経営理念を気に入ってくれているのだとか。
ベクトル合わせ
とは
そういうことだと思うんです。
だから、
つくる過程ではかなりしんどくても、
できてしまえば経営が楽になる。
目に見えない反発やすれ違いは目に見えるケンカ以上に減っているはずですしね、
経営指針書の目的や効果を端的に示す好例だと思います。